GIGI日記~映画とか本とか~

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映画「行き止まりの世界に生まれて」

評価:★★★★★

この映画、「ブックスマート」のDVDの冒頭で紹介されていて、ずっと見たかったんですが、擦った揉んだの挙げ句(ぽすれんでひどい目に。。。)、ようやく本日見ることができました。で、結論としては、もう、ものすごくおもしろかったです。

全編に挟み込まれるスケボーのシーンも、監督のビンが一緒にスケボーに乗って撮ってるので、スピード感と迫力と疑似スケーティング感がハンパなくて、冒頭から速攻で持って行かれました。

この映画はイリノイ州北部のウィネベーゴ郡に位置するロックフォードという都市で育った3人の少年が、少年から青年を経て大人になるまでの10年あまりの歳月をドキュメンタリー化したものです。

監督で日系人のビン、黒人のキアー、白人のザックの3人はスケボー仲間で、ヒマさえあればストリートでスケボーする毎日を送っていて、日系人のビンがずっと撮りためた映像の中から、時代設定はあくまでも現在に主軸に起き、時にさかのぼったり、幼少期の映像を挟み込みつつ、彼らの葛藤や挫折、迷いと怒り、憧憬と諦念、そして最終的にはちゃんと和解と希望を示しているのが素晴らしい。

ただ一つ、ボクが強調したいのは、この映画で描かれるロックフォードという都市は、別に行き止まりの世界では全くなく、むしろ最高にクールな街ってことですかね。だって街並みがハンパなくキレイなんですよ。家も庭が広くてデカくて戸建てばっかりで、都内みたいにマンションがニョキニョキ生えてないし、空は広いし、みどりが一杯で、川とか橋もキレイで、道路は広くてガラガラ、街も公園もとてもキレイで、こんな街に住みたいランキングナンバー1の美しさ。これで行き止まってたら、ボクみたいなごちゃごちゃした都内に住む人々は、「ゴミ溜めの世界に生まれて」ということになりかねませ~ん。

とはいえ彼らは、彼らなりに深刻な悩みや問題を抱えていて、監督のビンはそれを容赦なくカメラに収めるわけです。まずキアーは、父親と大げんかした後に家出し、その直後に父親が急死し、それに後悔の念を抱き続けています。
そしてザックは恋人のニナとの間に子供が生まれ、若くして親になったプレッシャーから、お互いに苛立ちと不安を募らせ、ケンカの絶えない毎日にお互いに辟易しているわけです。
そして監督のビンもまた、母親に言いたくても言えない悩みを抱えていたわけです。

まあ詳細については是非見てもらうとして、彼らは役者ではなく本物の個人なので、彼らは演技ではなく、本当の自分を随所でさらけ出すわけですが、その姿が見る側の人間の心を猛烈に揺さぶるわけです。

ザックとニナの壮絶な夫婦ゲンカも本物、キアーの涙も本物、そして監督ビンの涙もまた本物です。人は頭では決して制御できないほどの感情に見舞われたとき、涙を流します。複雑で制御不能な強烈な悲しみや怒り、後悔と懺悔、喪失と諦念、そういった感情に激しく心が揺さぶられたとき、涙を流すことでどうにか高ぶる感情を鎮めようとするわけです。つまり、この物語を一言で言い表すとすれば、「スケボーと涙と和解の物語」ということになるでしょう。

たしかにこのロックフォードという都市は五大湖周辺のラストベルトに位置し、グローバル化の煽りを受け、製造業が衰退し、錆びれた地方都市なのかもしれません。ですが、実は森の都市とも呼ばれ、みどり溢れる非常に美しい都市なんです。夏は木々が青々と生い茂り、秋には街路樹が紅葉に染まり、冬には一面が雪に覆われ、四季の移り変わりや街並みも素晴らしい。

ぼくが一番好きなのはキアーのはにかむような笑顔です。キアーは心優しい青年で、一生懸命働き、どうにか親元から自立しようと日々努力しています。ザックは顔がいいので、モテてすぐに女の子が寄ってきますが、エンディング間近に、彼が悲痛な表情で「オレが一番クソで負け犬で救いのようのないクズなんだ!ファック!」と、声を震わせて必死に叫ぶのが涙なしでは見られません。

でも彼らって一体どこがクズで負け犬なのでしょうか。たかだか20歳か30歳で人生が決まるはずがないし、そもそも高校中退や家出なんてどうってことないし、親も生まれも育ちも、人種や肌の色が一体なんだというのか?

なによりも彼らは最高にスケボーがうまい!それだけで他の人たちとは違う景色を見ているわけですよ。街中の道路際の階段や手すりや縁石やバンパーなんかに、スケボーで乗っかって擦った跡がたくさんあるわけですが、劇中で随所にそのこすった跡が静止画で挿入されるんです。だけどこれって、スケボーやってる奴じゃないと気付かない傷跡なわけです。そういう意味で、彼らにしか見えない世界があって、その世界に彼らは包まれていて、ある意味その時点で彼らは救われているんですよ。

この映画はそういうスケボーと涙と和解を描いた魂のドキュメンタリーなんですが、ぼくは以前見たスタジオA24の雰囲気だけの「mid90s」というクソ映画よりもよほど本作の方が好きですね。こういう映画って、仲間とパーティーでバカ騒ぎというのが定番なんですが、この映画にはそういうシーンがほとんどないんですよ、多分彼らもそういうのが嫌いなんだと思いますが、そこもまたボク的には共感です。