評価:★★★★★
この映画、最高の映画です。で、なぜかこの映画の記事を書いていなかったので、書いてみることにしました。もう何十回見たかわかりません。長期の休みの時は必ず見ます。この映画とディカプリオ主演の「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」とを合わせて、ボクは父子の絆2部作だと思ってます。しかしこの映画ももう、24年も前の作品なんですね。自分が年を取ったのをいやでも感じます。が、映像やストップモーションを多用する編集など、グッドフェローズなんかを巧妙にパクってて、スコセッシも顔負けの一級品に仕上がってます。そういえば、そのグッドフェローズの主演がこの映画でジョージの父親役を演じたレイ・リオッタでしたね。この映画はある意味レイ・リオッタの物語と言えるかもしれません。
さてさて、この2本に共通するのは父と子の深い絆です。世間的には息子は犯罪者なんですが、父は子に変わらぬ愛を持って接し、息子の成し遂げたことを、たとえそれが犯罪だったとしても息子を誇りに思ってるってことですね。そんな父親なので、当然、息子も父を尊敬しているんです。
一方で母親は子を恥に思っていて、子を決して許さないばかりか、警察に通報すらしてしまいます。因みにこの映画に出てくる女性は、意図的にかどうか知りませんが、ジョージ(ジョニー・デップ)の最初の奥さんのバーバラ(フランカ・ポテンテ)以外、ほとんどがいやな女です。ジョージの母親しかり、マーサ(ペネロペ・クルス)しかり、ディエゴの奥さんしかり。
さて、物語のあらすじとしては、Amazonとかウィキを見てもらうとして、一言で言うと、主人公であるジョージは、麻薬ビジネスで巨万の富を手に入れたあと、パートナーの裏切りや政変による銀行資産の没収などを経て、結局はおとり捜査で42歳の時に再逮捕され、物語はここで終わります。
この時ジョージは42歳で、その後何年収監されたのかはよくわかりませんが、史実ではたぶん3~5年程度で出所し、その後また52歳の時に再逮捕、結局は20年収監されることになったようですね。で、2016年(74歳)に出所したあと仮釈放違反でまた逮捕、2017年に出所し、2021年にホスピスで78歳の生涯を終えたようです。まあ一言で言うと、逮捕と釈放を繰り返し、人生の3分の1近くを刑務所で過ごした人生とも言えます。
ともあれ、刑務所で知識を経て「マリファナの学士」から「コカインの修士」に成り上がっていくイケイケドンドンのジョージは最高にクールでかっこいいです。度胸もあり、取引中にコロンビア人に肩を撃たれても冷静沈着、かつての仲間の本拠士であるパナマ諸島のノーマンズ・ケイという島に単身で乗り込んでいく姿はもう最高です。まあ、その後はボコボコにされますが。
そしてそんな目に遭っても、かつて裏切った仲間を恨むわけでもなく、自分の誕生日に来てくれたデレクには「もう忘れたよ。来てくれてありがとう」と感謝するなど、根の優しい、いい奴なんですね。しかし周りは海千山千の猛者ばかりなので、そこが逆につけ込まれる弱点ともなりえるという。
ここで思うのは、最初はジョージも麻薬ビジネスを金儲けのためにやってたわけですが、途中から金儲けそのものが目的になってしまい、結局自分の本当に欲しいものが何なのかがわからなくなってしまうということ。ただ、相手との駆け引きや、仲間との一体感、そして政府や法を出し抜く快楽も相当に心地よかったはずですが。
ですが、結局はそういう一時の快楽は長続きせず、豪邸に住んでも高級車を所有しても高い服を着ても決して満足できなくなってしまったんですね。そのことにジョージは42歳になってやっと気づくんですが、ボクからすると42歳なんてまだまだ若い、人生そこからじゃん!とも思うわけです。
そして、迷走するジョージに、物語の中盤、父が聞きます。
「ジョージ、お前は幸せか?」と。
これって最もシンプルな問いですが、ジョージは即答できません。なぜなら、幸せかどうかわからないからでしょう。あるいは、自分が何を求めているのかすら、わからなくなっていたからかもしれません。そして、結局、この物語で一番立派でわかっているのはレイ・リオッタ演じるジョージの父だと思いました。
そもそも人は「幸せとは何か?」なんて、日々の生活に追われて、あんまり意識しないで生きています。たぶんジョージの求める幸せは、家族が仲良く暮らし、父親は仕事をバリバリこなし、そこで子供がすくすく育ち、そして時を経て、あるときは父と息子が一緒に酒を交わす、たったそれだけなんですよ。
こう聞かれたとき、ジョージは子供の頃、父親に「自分も仕事場に連れて行ってくれ」とねだった時の自分の姿を思い浮かべます。たぶんこれがジョージの原風景、つまりはこれが幸せの象徴なんだと思います。
なので、二人で酒を飲むとき、必ずこういう決まり文句をお互いに口ずさむんです。
「常に風を背に受けて、顔には太陽の光を。運命の風に乗って、星と踊れるように」
要は「前向きに生きろ!」ということでしょう。これはアイルランドに古くから伝わる祈りの一節のようですが(詳細は不明ですが、レイ・リオッタがアイルランド系なので)、そこは重要ではありません。そうではなく、父と子が一緒に穏やかにこのフレーズを口にすることこそ、幸せを象徴していると思うからです。
そしてボクはこの映画を見ると、自分にとっての幸せとは何か?そんなことをいつも考えさせられます。
・健康で、仕事があり、家には嫁さんと猫がいる。
・休暇は本を読み、映画を見て、ブログを書く。
・食材を買い、料理を作り、家族で一緒に食べる。
・散歩に行き、風景を見て季節の移り変わりを感じる。
・庭で植物や野菜を育てる。
・時に父や友と会う。
・仕事で成長する。
とてつもなく他愛のないことですが、ボクにとってはこれが幸せの全てですね。たぶんジョージの父もそれを息子に教えようとしてたんですが、目の前にあるカネやモノに目がくらんだジョージにはなかなか気がつくことができない。というか、気づいていたのかもしれませんが、もう引き返せなかったのかもしれません。
ジョージが引き返せた?のは、全てを失ったあとなのが悲しいです。なお、史実では、ジョージは最終的に釈放後、娘さんと再会して和解したようですね。まあ、それがせめてもの救いでしょうか。
とはいえこの映画を、単なるドラック・ディーラーの末路(なれの果て)みたいな解釈では絶対に見てほしくないですね。
コロンビアの極悪非道なカルテルたちにも一歩も引かず、自分の美学を貫き、ユーモアがあり、それでいて仲間想いで肝の据わった男、そしてファッションもおしゃれで常にサングラスの伊達男、それがジョージ・ユング兄貴です!