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映画「誰がため」

評価:★★★★★

さて、第二次大戦レジスタンス映画の最高峰「誰がため」です。この映画、もう最高の一本です。そもそもレンタル屋に置いてあるかどうかすら不明なマイナー映画ですが、僕はこの映画の作りや見せ方そしてその構造にびっくり仰天しました。もう、とんでもない映画で、紛れもなくマイベストの一本。

舞台は、第二次大戦時のナチスドイツ占領下のデンマークで、軍事的支配や圧政に立ち向かうべく、秘密裏にナチスの高官やその関係者らを暗殺してまわったレジスタンス組織「Holger Danske(ホルガ・ダンスケ)」にスポットを当てた作品なんですが、なんと実話モノなんです。で、よくポーランドが舞台のレジスタンス映画は名匠アイジェイ・ワイダ監督が量産した力作がたくさんありますが、デンマークが舞台の映画ってこれまでなかったと思います。

映画ではこの地下抵抗組織に所属する腕利きの暗殺者フラメンとその相棒のシトロンの生き様を丹念に描いているんですが、今でもこの二人はデンマークでは英雄として称えられているようです。

何がすごいって、非道さと残虐さでは類を見ないナチスに対し、一歩も引かずに銃を手に立ち向かっていったわけですからね。しかも、町中や盛り場とかそこいら中がナチスであふれているさなかに・・・。もう見てて唖然とします。例えば、ターゲットの暗殺に成功し、盛り場で仲間たちと祝杯を挙げているシーンなんかでは、すぐ隣のテーブルではナチスが大勢同じように酒を飲んで騒いでいるわけですよ。その横でナチスの暗殺を祝うって、一体どういう神経なんでしょうか。しかもその酒場にはしょっちゅうナチスの将校も出入りしていたりとかして・・。

で、このフラメンとシトロンがとにかくかっこいいんですわ。赤毛のやさ男、フラメン役をデンマーク出身のトゥーレ・リントハートという役者さんが演じているんですが、その非道さ、激しさ、危うさ、繊細さの入り交じった複雑な役どころを難なくこなしているのがすばらしい。暗殺の前に、ターゲットにいちいち「オマエは・・・か?」って、名前を確認してから銃を撃つのがとにかくちょ~クールなんですわ。もう鳥肌ものです。

ちなみに相棒のシトロン役は、今では結構有名なマッツ・ミケルセンが演じてます。このシトロンって、最初は銃も撃てなくて襲撃前に吐いたりしてるヘタレなんですが、この組織で暗殺に手を染めていくうちに、徐々に立派な暗殺者へと変貌していくんです。その様子をベテラン、マッツ・ミケルセンがとても上手に演じてます。

最初は万事うまくいってるんですが、次第にこの二人の武勇がナチスにとって看過できないレベルになってきて、赤毛とメガネのレジスタンスとかって有名になって懸賞金まで掛けられてしまうわけです。漫画「ワンピース」のゆる~い懸賞金なんかとは段違いのやばさですわ。だって町中はそこいら中ナチスですから。

 面白いのは、この二人の働きっぷりってすさまじくはあるんですが、結局のところ、大きな政治的な流れの駒扱いに過ぎない、というとこなんですよ。この二人の上司にヴィンターっていうネチっこそうなニヒルな上司がいるんですが、こいつがもうすご~くやな奴で、二人は現場で命がけでがんばってるのに一切感謝の言葉もなく、次から次へと命令ばっかで、今の時代ならパワハラの極地なんですよね。

フラメンがケガした時もねぎらいの言葉を掛けるわけでもなく「ヘマをしたな!」とかって、じゃあ、テメエがやれ!!というか。で、こいつの命令でナチスのほか、ナチスに関わりのあるデンマーク人なんかを散々暗殺しまくるわけですが、途中でみょ~な噂を聞きつけるんです。要は、このヴィンターさんが政治的に気に入らない奴をこの二人に暗殺させているだけで、実際には暗殺した人々とナチスとの間には何の関係もないのでは?っていうね。で、この疑惑が映画のタイトルである「誰がため」というすばらしい邦題に繋がっているわけです。えっ?じゃあ、オレたちがデンマークのためにしてたことって、一体何だったの!!!というね。

と、クソ上司ヴィンターの話だけでもこんなに面白いんですが、それ以外にさらにヴィンターよりも上の階級の奴らがなぜかパリに集まってたりとか、フラメンが途中で惚れてしまう怪しい大人の女性とか、物語の途中、行きつけの酒場に入るなり、ナチスに包囲されていることに気づき、持ってる拳銃やライフルをぶっ放しまくって逃げるシーンとか、もう見所満載です。

銃撃戦も、アホな最近のターミネーターみたいに、最初から最後まで重火器でボコボコ周囲のモノがぶっ壊れ続けて車が吹っ飛ぶような派手さはないですが、その分、いくつかのシーンに濃縮されていますので、そのギャップが効いてて迫力満点でとにかくかっこい~んですわ。

ただ、相当注意して見ていないと、えっ?こいつって誰だっけ?とかって、物語がわけがわからなくなってきますので、登場人物の名前のメモは必須でしょうか。

それとびっくりしたのが、劇中、どんどんこの「ホルガ・ダンスケ」のメンバーがナチスにとっ捕まって殺されていくんですけど、もうビビりましたね。尋問も弁明の余地も裁判も一切すっ飛ばして、トラックの荷台に立たされてナチス10人ぐらいの一斉射撃を受けてあっという間に淡々と殺されていくんですよ。で、その後、ナチ数人がニヤニヤしながら荷台に登ってその死体と一緒に記念撮影をしたりとか、もうみてて寒気がしてきます。

まあ、戦時下なので当然こういうことは現実にあったんだと思います。毎日の殺し合いで神経が麻痺してきて、今の時代のような「人間性」なんて皆無というか。このシーンって、特段残酷なわけではないんですが、ひじょ~に後味の悪いモノがありました。とにかく最近のドンパチ映画に飽きてる人や、レジスタンス映画に興味のある方、「影の軍隊」何かが好きな方にはとてつもなくおすすめの一本です。

ちなみに「影の軍隊」もとてつもなく面白いです。

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