GIGI日記~映画とか本とか~

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映画「ソハの地下水道」(ポーランド抵抗もの)

ソハの地下水道(評価:★★★★☆)

いやぁ~ものすごい映画を見てしまいました。この映画、世に全く知られていないのが信じられないほどにすさまじい映画でした。「炎628」カティンの森などの系譜の苦行映画(「※娯楽映画とは対極の映画」という造語です)と言っていいでしょう。苦行映画であるがゆえ、万人にはお勧めできないので★は4つとしております。

時は第二次世界大戦中期、ドイツとソ連によるポーランドの分割統治の時代、ポーランドのルヴフという都市を舞台に、表向きは地下水道の修理業を営む小太りのソハおやじが主人公です。で、なんと、この映画は実話なんですね。

なによりショッキングなのは、率先してユダヤ人を見つけてナチスに差し出しているのは、ポーランド人の憲兵なんです。彼らは一人ユダヤ人を発見して捕まえる度に、ナチスから報奨金がもらえるので、日々何ら罪悪感なくせっせとユダヤ人狩りに励む毎日。

度肝を抜かれるのは、冒頭の方で、森の中を真っ白な物体が移動しているんですが、なんとそれは素っ裸にされたユダヤ人の女性たちで、ナチに強制的に森の中を追い立てられているんです。で、それも束の間、森の窪地みたいな場所に来ると、あっという間に全員が射殺されてしまうんです

そもそも、素っ裸の人間集団が森の中を叫びながら逃げ惑うというだけでもあり得ない光景ですが、その後ズダダダダダダダダッッッッ!という軽機関銃の銃声が響きわたり、シーンが切り替わると同時に、窪地の砂の上に大量の白い物体が重なり合って転がってるんですよ・・・・。ちょっともう直視できないシーンでした。

ともかく、そういうユダヤ人達を、ソハおやじは金を稼ぐために自分の仕事場である地下水道に匿うことにするんです。ここら辺は、ソハも変な正義感からではなく、単に生きるため、家族のため、食費を稼ぐために協力することにするんです。

この映画が特に素晴らしいのは、迫害されたユダヤ人たちのことを変に美化していない点なんですね。だって、この下水道に隠れているユダヤ人達なんですが、もうダメダメな奴らが多くて、しょっちゅう罵り合ったり、ケンカばかりしてるし、奥さんの横で別の女とエッチしたり、あげくはヤク?をやったりとか、まあ、やりたい放題なんですが、けれど、実際はむしろこんな風だったのかもしれません。

そして、ソハもまた、そんなダメダメなユダヤ人らと交流を交わすにつれ、ようやく当たり前のことに気づくんですね。それは、彼らも日々笑って泣いて生活する自分たちと何ら変わらない人間であるってことに。

要は自分の理性に目覚めるわけですが、しかししかし、この当時はユダヤ人を匿うだけで、それがバレると一家皆殺しになる時代です。早々ユダヤ人の味方なんて怖くてできるはずもありません。町中の子供達がユダヤ人を見るとバカにして石を投げつけるような時代ですよ。

そんな中、渋い顔をしながら、しかも奥さんからも何一つ理解されないまま、黙々とユダヤ人に同情的になっていくソハおやじの表情の変化がすばらしい。このものすごい演技力にボクは圧倒されっぱなしで、これこそがこの映画の醍醐味とも言えるでしょう。

ただ、奥さんの気持ちもよくわかるんです。どんなにユダヤ人を助けたくても、もしも当局に見つかったら一家全員が処刑され、子供までが犠牲になってしまうわけですから。

ボクはポーランドの名匠アンジェイ・ワイダ監督地下水道は価格が高すぎてまだ見ていませんが、この映画は紛れもなくそれに連なる名作として語り継がれることになるでしょう。ちなみに、この地下水道「世代」灰とダイヤモンドを合わせて抵抗三部作といわれています。この前、奇跡的にメルカリに安いのが出てたんですが、先を越されてしまって、一体いつになったら見れるんでしょうかね。

最後に、この映画って最近の東京の梅雨空のようにまったく青空が出てこないんですが、それが唯一、ラストで青い空が広がってるんですよ(ジャケット参照)。「天気の子」の新海さんじゃないけど、青空って人間に希望とか元気を与える力がありますよね。ブルーハーツの歌にもありますし。あっ、考えてみると、「青空」の歌詞って、こういうナチスとかホロコーストを批判するような内容になってますよね、なんたる偶然!

まあ、そろそろ関東も梅雨明けのようですので、ようやく青空を見れると思うとうれしくなります。

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