「ザ・ハント ナチスに狙われた男」(評価:★★★☆☆)
いやいや第二次大戦ナチスものって一体何本あるんでしょうか。見ても見ても全く収束せず、むしろどんどん拡散して行ってるような、まるで今のコロナ情勢みたいですね。で、実はノルウェーものがまだあったんですね。
この映画は、ドイツ占領下のノルウェーに設けられたドイツの軍事拠点である航空管制塔の破壊のために、イギリスで訓練を受けたノルウェーの特殊工作員12名が漁船に乗り込み、ノルウェーに接岸した直後のシーンで物語がスタートします。名付けて、作戦名は「マーティン・レッド作戦」!!もう作戦名がかっこいい。
で、当然ボクとしては、その特殊工作員達がナチス相手に死闘を繰り広げる物語とばかり思っていて、最初からアドレナリンが分泌されまくりの、テンション上がりまくりのトランス状態だったんですが、はじまって5分経過したところで・・・・・愕然。
実はその秘密作戦って、とっくにナチス側にバレていて、まあ一連の擦った揉んだはありますが、工作員12人のうち11人があっという間に殺されるか捕るかしてしまいます。で、これってはじまって15分くらいの話なので、全くネタバレにすらなりません。
それ以降は、どうも物語の方向性が変わってきて、当初の作戦の目的なんて速攻で消え去って、たまたま捕まらなかった工作員の1人が、無事中立国であるスウェーデンに逃げきることが、むしろこの物語や作戦のメインテーマとなってきます。
なので「ザ・ハント」、つまりは逃げるノルウェーの工作員とそれを徹底的に追いつめナチスという構図、要は国を上げた壮大な鬼ごっこと化していくわけですが、なんかもう、ここまでくると、どうでもいい感が否めませんでした。
だって、大きく掲げた「マーティン・レッド作戦」が速攻で出鼻をくじかれたわけですから、もうこの12人は負け戦(つまり負け犬)ですし、そいつらが生き延びようがなんだろうが、目的は何一つ達成できなかったわけですから、あえてこの工作員達にスポットを当てる必要があったのかと。確かにノルウェーとしては、この作戦や工作員達があまりにも悲惨で不憫なので、どうしても歴史的に何らかの意味を与えたかったんでしょうが、やはり負け犬の遠吠え感や犬死感は否めません。
まあ、ともあれ、その工作員を追い詰めるナチス将校として、イギリス俳優のジョナサン・リース・マイヤーズ君がとんでもなくいい演技をしていることが唯一の救いでしょうか。彼は、ユアン・マクレガーと共演したグラム映画の最高峰「ベルベット・ゴールドマイン」で彗星のごとくデビューを果たしましたが、それ以降はまともな映画に恵まれず、依然として鳴かず飛ばず状態でしたが、いやいや結構がんばってるではありませんか!
彼は始終、苦虫を噛みつぶしたような顔をしてるんですが、突然「シャイセッ!Scheisse!(クソッ!)」と叫ぶシーンはもう最高です。見終わった後は、もうすっかりこの「シャイセ」マネしちゃいました。これからは「ファックfuck!」ではなく「シャイセッ!Scheisse!」の時代到来かと。
まあしかし、この逃げる工作員ですが、彼を全面的に否定はしませんが、周りの人に助けてもらってばっかりで、見ていてイライラしてきます。こいつのために民間人が犠牲になるくらいなら、むしろ死んでくれた方がよっぽどいんじゃね?みたいな。
それと気になったのが、ナチスドイツのよく言えばきめの細かさ、悪く言えば神経過敏っぷりでしょうか。たとえば先のブログで紹介した「ハインドリヒを撃て」のチェコのレジスタンスとか、「バトル・オブ・ワルシャワ 名もなき英雄」のポーランドの密使の場合もそうですが、こういう少人数の工作員がドイツ領内へ侵入することを、いちいちドイツ軍はスパイや諜報活動で事前につかんでいて、そこにかなりの人員を割いてそういう小さな反乱の芽を速攻で摘んでしまおうとするんです。これってドイツ人特有の生真面目さでしょうか。
はっきり言ってボクがナチスなら、そういう少人数の工作員がドイツ内に入っても、ダルいしめんどくさいので、もうほっといてもいんじゃね?ぐらいに思うわけですが、それをナチスはいちいちネチっこく聞き込みして調べて追跡して捕らえようとするんです。なんか、そういうきめの細かさは、もっと別のところに活かした方がいいように思うわけです。で、そういうドイツ人特有の気質やきめの細かさが、最もダークサイドかつ負のベクトルに向いてしまったことで、ホロコースト(フランス読みでは「SHOAHショア」)のような悲劇につながったように思います。
まあ、イマイチな映画ですし、この映画によって「マーティン・レッド作戦」をどんなに再構築しても「犬死」感は否めませんが、収穫としてはジョナサン・リース・マイヤーズ君の「シャイセッ!」ぐらいでしょうかね。是非、お子様と一緒に「シャイセッ!」と叫ぶながら鬼ごっこをしてみてはいかがでしょうか。