GIGI日記~映画とか本とか~

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本「ライ麦畑でつかまえて」

最近は映画ばかりだったので、久々に本も紹介します。言わずとしれた「キャッチャー・イン・ザ・ライ」です。あまりにも有名な「ライ麦畑の捕まえ役」ですね。この本は、僕のこれまでの人生の中で堂々のベストワン作品です。なので、もしも本好きの方でこの本を読んでいない人がいれば、今すぐBOOK-OFFへGO!たぶん、青と白の新書版が100円で買えます。なお、その時、絶対に村上春樹さんの翻訳版を買わないように注意してください。訳がこなれてなくて「ノルウェーの森」チックでおもしろさが激減してしまいますので。とにかくすばらしいのは野崎孝さんの翻訳版です。

この本はなぜか青少年の心理分析に使われたりとか、「ジョン・レノンを撃った男」で、ジョン・レノンを銃撃した犯人であるマーク・チャップマンが愛読してたりとか、「陰謀のセオリー」でメル・ギブソン演じる記憶喪失の変人がこの本を見ると条件反射的に買ってしまったりとか、なんとなく、サイコパスとか精神異常者がこの本を愛読する、といった誤った解釈がなされているのがホントに腹立たしい限りです。

この本は主人公であるホールデン・コールフィールド君が、学校を中退し、寮から出てニューヨークの町を放浪し、にっちもさっちもいかなくなって、精神的にも肉体的にも疲れ果てて最終的には入院してしまうんだけど、その療養中に、自分に起きた出来事を一人称で語りまくって(つまりは元気になって)、それを紙に書き記すとこの本になった、というただそれだけの話なんです。しかも全編にわたってギャグがちりばめられていて、電車とかで読むと笑いが堪られなくて、とにかく危険だし大変です。

この本って、売れすぎて評論家がバカな事ばっかり言ってわかったつもりになって安心したいんだろうけど、そんな高尚なモノでは全くなくて、単なる思春期の葛藤とか怒りとか迷いとか諦念とかを吐き出すだけ吐き出して後は読み手に任せる、といった今はやりのナメた作りではなくて、最終的にはちゃんと希望を示して終わってるという奇跡みたいな痛快ジュブナイル小説なんです。そこが僕の愛する最大の理由です。

最高なのはホールデン君がナイトクラブでアーニーというピアニストを酷評するシーンで、ホールデン曰く「もうかなりアーニーの演奏はダメになっているのに、彼が何を弾いても観客がバカみたいに拍手喝采するもんだから、アーニー自身がダメになっていることに気づかないんだな、そしてそれは観客のせいでもあるんだな」とかって独りごちるシーンなんだけど、もう最高だと思いませんか?たかが高校生のホールデン君がこういう世の中の真理みたいなことに気づくんだからすごい。

これは今の日本でもいえることであって、全く強くないサッカーの日本代表をアジア最強とか絶対優勝とか紹介してみたり、演技力の皆無なアイドルが人気だけで映画に主演したりとか、狭い日本というフィールドだけでも十分にマーケットとして成り立っているからこそ、ルックスとか人気だけで映画とか音楽が大量生産されているわけです。しかしそれは、観客というか受け手がそれでいいと思っているからこそ成り立っているとすれば、マスコミも我々みたいな受け手も同罪というか。そもそも、誰も言わないけど、律儀に起案書とか稟議書なんかをまわして伺いを立てるような国民性の日本が、サッカーなんて強いわけがないというか。

僕はマスコミが大嫌いなのでテレビは全く見ないんですが、今の日本は上から下まですべからくいじめ社会なんだと思います。例えば芸能人が何か不祥事を起こすと徹底的にたたき、下手をすれば謝罪会見を開かせたりとか、冗談じゃないといいたいです。僕の尺度からすると、芸能人とか役者はその芸で評価されてしかるべきで、そいつがどんなにいやなやつで不倫してケンカしてばかりの人間のクズみたいなやつでも、演技とか芸にだけ真摯でストイックでいればいいんです、そこで勝負すればいい。まあ、犯罪者になってしまうと当然追放されて終わりではありますが。

世の中に名を残す偉人はすべからく欠陥人間が多かったのは周知の事実だし、相撲だろうが芸能だろうが、その人の生活とか性格なんてどうでもいいんです。ちょっと複雑ですが、すごい人だからこそ他はダメでもいい、という言い訳みたいな話ではなくて、他がダメだからこそ、それを補う意味でその他のいろいろな能力や才能が人並み以上に発達した、ということなんです。

というか、そもそも、そんな公明正大で品行方正な人ってホントにいるのかよ!って言いたいですね、とくにマスコミ関係!なので、謝罪会見、金輪際禁止にしてほしいです。謝罪会見という名の集団いじめだし、こういう場面を平気でテレビで垂れ流していることこそ、学校とか職場でいじめがなくならない最大の原因です。「そいつが何をしようが、テレビの前で全く関係のない大衆に向かって謝罪なんかする必要は絶対にない」ということを一般市民が認識して拒否しないと、そういうコンセンサスが生まれようもありませんが。なので、みんなテレビを見るのをやめれば、放送内容も少しずつ変わってくるんだろうと思うけど、それは無理ですし。

まずい、「ライ麦畑でつかまえて」からどんどん話が逸れてしまいましたが、僕は辛いときとか落ち込んだときに必ずこの本を読んで勇気をもらってます。とにかく、随所に挿入されたギャグも最高におもしろいし、途中から出てくる妹のフィービーがとにかくいい子で勇気をくれるんですね。これって結局は人間の可能性を信じているという人間賛歌であって、その点はどこかポール・トーマス・アンダーソン監督に相通じるところがあるような気がします。なので間違っても心理学の教本なんかに使うのはやめてください。

ただし、著者であるJ.D.サリンジャーさんの他の著作グラース家サーガである「ナイン・ストーリーズ」とか「フラニーとゾーイ」とか「大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモアー序章ー」なんかは、僕の読解力がないためなのか、もう難しくて読みにくくて意味がわからなくて、買って20年以上経ちますが未だに通読してません。サリンジャーさんごめんなさい。今年こそ読もうかな。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

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ジョン・レノンを撃った男 [DVD]

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フラニーとゾーイー (新潮文庫)

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大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫)

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