GIGI日記~映画とか本とか~

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映画「スティルウォーター」

評価:★★★★★

この映画、すごくおもしろかったです。久しぶりに映画を見たからでしょうか。しかし、このブログは本来は映画の感想をメインにしたブログのはずだったんですが、最近のメディアの凋落ぶりがあまりにひどく、政治的なネタばかりになっていましたね。

さて、この映画は一言で言うと、マット・デイモン主演で、オクラホマ州スティルウォーターで暮らす親子の信頼や絆を描くハートフル・ムービー、ということは一切なく、そういういちジャンルに当てはめることすら不可能です。

アメリカのブルーワーカーの暮らしぶりから始まり、アメリカの大統領選フランスの移民問題、そしてアラブ社会との対立構造のほか、ギャングと麻薬マルセイユ近郊の大自然ジェンダー問題司法と冤罪などなど、もう盛りに盛った内容になっています。が、最終的にはそれら全てを包括的に収束・昇華させ、見事に着地させるという類い希なる映画に仕上がっています。そこがすごいんです。ボクは前回みたノマドランド」よりもこっちの方が数倍おもしろかったですね。

あらすじはAmazonなんかで見てもらうとして、現在の色んな政治的問題がこの映画にうまく濃縮されているように感じました。例えば移民問題一つ取っても、非常に考えさせられました。

結局普通に考えると、ある国の出身者が大量に別の国に移住するということは、その文化や習慣が全く異なりますし、えてして彼らは生活習慣を全く変えずに、よその国の中に国家内国家をつくるので、結局は現地の住民と軋轢を生み、トラブルや犯罪の増加にも繋がりかねません。

なのでトランプさんフランスのルペンさんのように、無尽蔵に移民を受け入れるのではなく、本当にその国の住民になる覚悟と技術や能力をもった人間だけを受け入れる、という政策を本気で実行していかないと、国家内国家だらけになってしまうでしょう。

今のEU、特にフランスやドイツの現状や、アメリカ南部の不法移民問題をみると、人道支援や多様性などという聞こえのよいフレーズで、どんどん移民を受け入れるという政策は、現場を全く知らない人の戯れ言にしか聞こえません。

ボクはレイシスト(差別主義者)では全くありませんが、特にこの映画を見ると、フランスはすでにアメリカのような人種のるつぼになっており、様々な問題を抱えているように感じました。というのは、マット・デイモンと現地の協力者である女性が、娘の事件の真相を探るために、アラブ系の女性に話を聞くシーンがあるんですが、そのアラブ系の女性の友達が「こいつムカつく。」とか「よそ者に仲間を売るな」とか、もうフランス女性に対する憎しみがすごいんですね。

まあ、現地でもそうなのかはわかりませんが、かれら移民自体が、受け入れてくれた国の社会保障等の恩恵を存分に享受しているにも関わらず、その国への恩義や、生粋のフランス人をリスペクトすることなく、徹底的に自分たちアラブ社会のコミュニティを死守しようとする姿は、見ていて決して気持ちのいいものではありません。

そもそも彼ら移民が集団で生活しているエリアそのものが、すでに治外法権の国家内国家になっており(アメリカの「プロジェクト」とよばれる黒人の低所得者層向け住宅エリアに似ています)、そこには生粋のフランス人はほとんど近寄らないようにしていて、警察も容易には介入できないような有様なんですね。そこにたった一人で乗り込んでいくマット・デイモンもすごいですが。

つまりは彼ら移民の主張を要約すると、我々はフランス国家の恩恵は享受するが、国民の義務を果たすつもりはないし、またその国の文化に染まるつもりもない、なので部外者であるフランス人は我々のコミュニティには口出しするな。我々には我々のやり方がある、と言っているに過ぎません。であれば、自分の国に帰れば良いのではないでしょうか?

まあ、これが行きすぎた移民政策の当然の帰結なのでしょうが、今の時代、政治家は、すぐに左翼に牛耳られたメディアにポリティカル・コレクトネスや人権を盾にレイシスト等のレッテルを貼られてしまうので、そんなことを言えるはずもありません。しかし、それを堂々と主張したのがトランプさんルペンさんだったわけですね。

さて、この映画ですが、マット・デイモンの娘役のアリソンを演じたアビゲイル・ブレスリンちゃんですが、彼女はリトル・ミス・サンシャインで一躍有名になった子役出身の女優です。子役の時はかわいさ抜群だったんですが、この映画では太っていて、お父さんのマット・デイモンに対してひどい口調だし、見ていてものすごくムカつくんですが、物語が進むにつれ、その演技力が全てを凌駕します。

多分もう少し痩せれば美人なのは間違いないし、なによりその意志の強さと弱さが同居した眼差しは、例え演技であるせよ、ものすごく説得力がありました。やはりすごい女優で先が楽しみですね。

そして、マット・デイモンが戦うシーンは、もろにボーン・アイデンティティジェイソン・ボーンを彷彿とさせるし、このアビゲイルちゃんが入り江で泳ぐシーンも、ジェイソン・ボーンが水中で水を搔きながらクルッと回転するシーンのもろパクり。これって意識したんでしょうか。

また、マット・デイモンが劇中ずっとかぶっている帽子が、彼がかつて勤めていた石油掘削会社のロゴ入りで(たぶん)、そこに自分のかつての仕事への誇りと、その仕事がなくなってしまったアメリカ社会や産業構造の変化への憤りが凝縮されているようで、これも複雑な気持ちにさせられました。

しかし、マット・デイモン映画に外れなしですね。色々な問題を正面からきちんと描いていて、サスペンス要素もふんだんにありますので、かなりお勧めの一本です。