評価:★★★☆☆
いやいやようやく見ました「ファントム・スレッド」です、大好きなポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作ですハイ!・・・が、なんでしょうかこの残念感は。
ごめんない、あまりにも高尚すぎて、あるいは僕にはレベルが高すぎたのか全く理解できませんでしたですハイ。しかしなんでポール・トーマス・アンダーソン(長いので、以下、PTAとします)はこういう高尚系というか純文学チックな方向に行ってしまったのでしょうか。ボクがぎりぎり大丈夫だったのは「パンチドランク・ラブ」までで、PTAが今回の「ファントム・スレッド」の主演のダニエル・デイ・ルイスとかホアキン・フェニックスとつるみ出してから、急速にクソつま化が進行したように感じてます。もうむずかしいよ~う、オレのミルクセーキ!お前のミルクセーキ!(by「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の名セリフ)
最初はダニエル・デイ・ルイスの「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」にはじまり、次いでホアキン・フェニックスの「ザ・マスター」とか「インヒアレント・ヴァイス」とか、もうボクには頭が悪すぎて全く理解不能。おそらくは、かなりハイレベルな人間賛歌なのかもしれませんし、雨林(Amazon)ですら以外にも高評価で、みんな頭いいですよね。ボクにはさっぱり意味がわからなくて・・・。
とはいえこの映画って全く見所がないわけではありません。僕としては意味がわからないと言いつつも、年に数回は「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」や「ザ・マスター」を見直してますので、この「ファントム・スレッド」もそれなりに中毒性はあるかと。
さてストーリーですが、時は1950年代のロンドンで、腕のいい仕立屋でデザイナーのデイ・ルイス(レイノルズ・ウッドコック)は、そのドレスが外国の女王から発注されるほどの超売れっ子。ロンドンっ子でウッドコックブランドを羽織ることは、もうそれだけで一大ステータスというわけです。そんなレイノルズですが、とにかく神経質で理屈っぽくてマザコンかつシスコンという三重苦を背負ったおっさんなんです。が、そんなおっさんのクセにかなりモテるんですわ。なんででしょ?ルックスなのか金なのかはよくわかりません。ただ、性格がやな奴すぎるので、すぐに女の方が耐えきれずに出て行ってしまうんです(まあ、当たり前です)。
そんな中、レイノルズがふらっと入ったレストランで、そのルックスが気に入ったのかスタイルに魅了されたのかはわかりませんが、あまりパッとしないアルマというウエイトレスの女性と恋に落ちて、このアルマとの生活が始まるんです。で、このアルマがこれまでの女性と違うのは、このレイノルズがやな奴すぎるのに、なぜか絶対に出ていかないんですね。で、あとはエンディングまで、二人の関係がよくわからない方向に疾走していく、という物語なんです。
とにかく笑えるのが、彼女を自宅に連れ帰った翌日、朝食の席で、アルマがカチャカチャ音を出してパンにバター塗ったり、紅茶を飲んだりするわけですよ。そうするとレイノルズの機嫌が一気に悪くなって「静かにしてくれ」「動作が大きい」「僕の一日を台無しにしないでくれ」とか、まあ、ことある毎に神経質というか、神経過敏症みたいに文句を垂れるわけです。それ以降は、劇中ずっとちょっと気に入らないことがあると「なぜそんな話題を出した?」とか「おかげで心を乱された」とか「アスパラガスにバターソースはナンセンスだ」とか言ってて、見てるとだんだん殴りたくなってきます。このやな奴さの種類とか雰囲気は「カジノ」のデニーロに匹敵すると思いますね。
ただ、ギャグと思って見ると、まあ笑えますよね。人間って少なからず自分なりのルールというか許せないことってあるわけでして、そういうルールの塊でできてる奴が要はレイノルズ・ウッドコックという男なんです。
僕が好きなシーンというか、見事だなと思ったのは、大晦日の夜、アルマはレイノルズが渋ったので、一人で街のダンスパーティーに出かけてしまうんですが、結局レイノルズも耐えられなくなって、そのパーティー会場にアルマを探しに行くんです。で、その会場の2階から、1階のホールで楽しそうに踊るアルマを見つけ、急いで1階に降りるんですが、そこでまた見失ってしまうんです。で、強引に人並みを搔き分け、廊下みたいな所に出ると、そこにはアルマが一人で静かに壁にもたれかけながら、まるでレイノルズが来るのを予見していたように、じっとこっちを見つめて立ってるんですね~。
このシーン、僕はかなりゾクっとしましたね。若かりし頃に全く予期していない場所で好きな子と鉢合わせになった事とか、彼女と街中でケンカになって置いてきぼりにした後、やっぱり気になってその場所に戻ったらずっと彼女が待っていた事とか、そういう淡~い記憶がよみがえってきました。結構、神がかったシーンだと思います。
ちなみに、このアルマを演じた女優さんは、ヴィッキー・クリープスという新星女優さんなんですが、なんとなく垢抜けないパッとしない女優なんですが、見る角度とかカメラのアングルによってはものすごく美人に見えたりもするわけです。まあ、そこは狙ってるんでしょうが、女優というのはモデルとは違うことが非常によくわかりますね。
というわけで、見所がないわけではないこの映画、神経質で強迫神経症気味のおっさんたちには是非おすすめの一本です。が、やはりボク的にはPTA初期の傑作、「ハード・エイト」「ブギーナイツ」「マグノリア」の三部作の方が断然好きですね。出ている役者さんも①バート・レイノルズ、②ウィリアム・H・メイシー、③ジョン・C・ライリー、④フィリップ・シーモア・ホフマン、⑤メローラ・ウォルターズ、⑥フィリップ・ベイカー・ホールさんなどなど、かつてのPTA組が勢揃いで、スクリーンでの存在感が半端なくて皆さん本当に魅力的でした。ただ、残念ながらすでに①バート・レイノルズおやじと大好きだった④フィリップ・シーモア・ホフマン兄貴はすでに亡くなってしまいました。そろそろPTAさん、原点回帰しないかなあ~。