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映画「VICE」&「記者たち」

「VICE」評価:★★★★☆                           「記者たち」評価:★★★☆☆

いやあ~この2本、めちゃめちゃ面白かったです。単なる偶然なんですが、この2本をセットで見たのが特によかった。「VICE」って、「悪癖」とか「堕落」とかイマイチいい意味では使われてないようなんですが、「副」とか「代理の」という意味もあって、「vice‐president」とすると「副大統領」って意味になるそうです。とはいえ、多分に「悪の」という意味もあるんだと思いますが・・・。

この映画は、かのブッシュ政権イラク戦争当時、副大統領を務めたバリバリネオコンディック・チェイニーに焦点を当てたもので、若き日のディック・チェイニーが如何にして成り上がり、副大統領にまで登り詰め、イラク戦争をはじめるに至ったのか、その辺の事情を相棒のドナルド・ラムズフェルトと一緒にとても丁寧に描かれています。

一方の「記者たち」の方は、当時のイラク戦争に突っ走る政府見解を徹底的に取材して、数ある新聞社の中で唯一真実を発信し続けた新聞社である「ナイト・リッダー」の記者たちの奮闘を描く社会派映画なんですが、物事を両面から見ているようで非常にためになりましたですハイ。

いやあ~、オリバー・ストーンの「ブッシュ」はともかくとして、まさかディック・チェイニーが主役の映画が作られるなんて、やはりこれがアメリカの懐の深さなんでしょうか。この映画、もう最高でした。

ディック・チェイニーって、なんとなく冷徹なバリバリのネオコンでイケイケの帝国主義者みたいな印象があったんですが、家庭では奥さん思いで二人の娘のやさしいパパさんなんで、見終わってかなり印象が変わりました。

ホワイトハウス入り当時は、ラムズフェルドの雑用係みたいな立場からはじまるんですが、次第にラムズフェルドと仲良くなって、ともに長期にわたり共和党政権(ニクソン、フォード、パパブッシュ、息子ブッシュ)の屋台骨となって支えていくんですね。

チェイニーがなにより優れていたのは、どうでもいいバカげた壮大な話をさも意味ありげで革新的なアイデアのように話す能力で、いつもニヤニヤ周囲を小馬鹿にしているラムズフェルドと一緒にどんどんのし上がっていくわけです。これって結構見てて痛快でした。

笑ったのはチェイニーが言い出した「一元的執政府」という概念で、要は行政府(大統領府)が立法(連邦議会)とか司法(連邦裁判所)を無視して承認を得ずに政策決定していくというモンテスキュー三権分立を全否定する考え方なわけです。

まあ、9/11後の非常時であることなんかを言い訳にして、弁護士の入れ知恵やお墨付きをもらいながら、どんどん自分たちのやりやすい方向にホワイトハウスを改造していくわけです。これをみると、息子ブッシュは単なる傀儡だったのかな~とも思えてきて笑えます。またそのバカ息子ぶりをサム・ロックウェルがとても上手に演じてます。いやぁ~いい役者ですね。ただし、それをいうとチェイニーを完璧なまでに演じきったクリスチャン・ベールはもうとんでもない怪優ですよ。そもそも役者名がクレジットされない限り、誰もクリスチャン・ベールだって気づかないわけで。

しかしこのブッシュ政権って、今のイラクやシリアの大混乱やISの台頭を引き起こした張本人なわけだから、間違いなく負の歴史として語り継がれるでしょう。ただ、僕としては、この現実をブッシュ政権(チェイニー、ラムズフェルド、ライス、パウエル、ウォルフォウィッツら)だけのせいにするのは違うと思うし、結局はそれを支持した国民はどうなのよ?ってことなんですよ。

なぜなら、少しでも中東の情勢を知っていれば、世俗主義者のサダム・フセイン原理主義者のオサマ・ビンラディンが共闘するはずもなく、むしろ敵対さえしていたわけで、それすら知らずに政府発表を鵜呑みにして支持した国民も当然同罪に決まってます。

こういうことを書いていると、なんとな~く衆愚政治という言葉が頭に浮かんできます。つまりは民主主義といった統治形態は、国民のレベルが下がって無関心、無勉強、無自覚な国民が増えると、投票率や政府への監視能力が低下し、それを受けて政府も無方向・無秩序な状態に陥って、結局は国家が堕落・腐敗していくというね。しかもそこに、政治からは独立した監視機構であるはずのマスコミが取り込まれてしまうと、政府主導のファシズムに国民は踊らされて思考停止状態に陥ってしまうわけです。

なんかこれって今の日本みたいじゃないですか?

ところで、今こう書いている最中、どうもISの指導者であるアブ・バクル・アル・バクダディが殺害されたようですね。2013年、カリフ制国家の樹立と自身のカリフへの即位を声高に宣言して以来この6年、ようやくその活動に終止符が打たれた模様です。しかし、このバクダディをアメリカ軍が1年近く拘束していたことはあまり知られていません。つまりは、いくらでもバクダディの後継者はいるわけで、アメリカがそれを事前に察知することも不可能なわけです。

これを機にアメリカは中東から撤退するのかどうかはわかりませんが、結局アメリカは部外者に違いなく、中東のことは中東でっていうのがセオリーなんでしょう。けれど、過去の遺恨である西洋の論理によるイスラエルの建国とパレスチナ問題や、中東の国境線をズタズタに引き裂いたイギリスとフランスの悪名高いサイクス・ピコ協定なんかも絡んでますし、さらに近年のアラブの春以降のエジプトやリビアの混乱や、シリアのアサド政権へのイランやロシアの関与、スンニ派シーア派の確執の拡大、サウジやパキスタンの動向など、なんだか間違っても第3次世界大戦なんかにならなければいいのですが。

それはそうと「バイス」の途中の偽のエンドクレジットには大笑いしましたので、見てない人は自信を持っておすすめです、笑いますよ。

あ~、かなり長くなりましたので「記者たち」は次回に書くことにします。 

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