GIGI日記~映画とか本とか~

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本「アメリカの卑劣な戦争」

最近、映画ばかりでしたので、久しぶりに本の紹介です。

さて、ジェレミー・スケイヒルさんの「アメリカの卑劣な戦争」なんですが、お正月に読みます宣言してからおよそ2ヵ月近くかかってようやく読み終わりました。って、もうこの読み終わるスピード自体が僕の気持ちを代弁しているというか。

この人の本、前に紹介した「ブラックウォーター」もそうでしたが、アマゾンのレビューでは高評価なんですが、僕の読解力や記憶力のスペックが低すぎるのか、あまり楽しめませんでした。訳が微妙なのか、元々の原文でもつまらないのかまではわかりませんが、もう少し書き方や構成を工夫すればいいのにと残念に思います。きっと永久に文庫化はされないでしょう。

この本はブッシュ政権からオバマ政権に変わって、アメリカの対テロ戦争がどのように変わったかということを、イエメンやソマリアのほか、ビン・ラディンを殺害したパキスタンでの事例に基づき、時系列で詳細に綴った本なんです。その意味で、やはりものすご~く貴重な本なんですが、大学でイスラム原理主義を研究する学生なんかじゃない限り、この先一生読まなくても誰も困りません。が、やはり僕には貴重な内容でしたね。

そもそも、大半の日本人のアメリカ大統領の認識って、ブッシュがトム・クランシー・コンバット・コンセプト(TCCC)を地でいくネオコンのイケイケで、一方オバマは博愛主義でリベラルで弱者の味方で対テロ戦争は縮小路線、といったイメージがあるはずです。

が、実はオバマはブッシュがやりたくてもできなかったことを承認して現実のものに変えたとんでもないイケイケ大統領だったんですね。で、それは一体何かというと、大きく2つあって、1つは「アメリカ(ホワイトハウス)が驚異と見なしたテロリストのいる国に対し、その国への事前通告や承認なしにアメリカ軍(統合特殊作戦コマンド)を派遣して殺害することができ、かつ大統領が緊急と判断した場合においては、議会の承認を得ずに作戦を実行することができる」ということ。そしてもう1つは「仮にテロリストと判断された容疑者がアメリカ国籍を有する場合であっても、大統領が必要と判断した場合においては、議会の承認を得ずに暗殺することができる」ということなんです。

つまり、アメリカは、テロリストがいるであろう国には勝手に特殊部隊を送れるし、そのテロリストがアメリカ人であっても、テロリストと見なされた時点で、そいつの有する一切の権利(裁判を受ける権利や弁護士を雇う権利などなど)が全て消え失せるということなんですね。これってものすごく異常なことなんですが、全く日本では報道されないばかりか、むしろ誰も知らないんじゃないでしょうか。

例えば、アメリカ政府に気に入らない人間がいた場合に、そいつをテロリストと決めつけさえすれば、暗殺してもOKと言ってるわけですよ。で、そんなのウソだと思うかもしれませんが、実際にアンワル・アウラキさんというアメリカ国籍のイスラム教の導師(宗教家)とその息子はその判断によって殺されてしまいました。で、現在では二人がテロリストでも何でもなかったことが明らかになってます。

それと、オサマ・ビン・ラディンが殺害された際には、世界中のメディアが雄叫びを上げて歓喜に駆られた報道が延々となされました。が、実はあれってアメリカの国際法を100%無視したド勝手な国家的犯罪行為だったのは全く知られていません。

実際、アメリカは事前通告なしに勝手にパキスタンに領空侵犯し、国境から内陸240kmほどのアボッターバードにあるビン・ラディン邸まで飛んでいって、真夜中にビン・ラディンと女性を含めた非武装の護衛とその家族を殺しまくって、ビン・ラディンの遺体だけをヘリに乗っけて、その他の遺体は放置したままスタコラサッサと逃げ帰ったという、パキスタンの国家主権を脅かすようなふざけた行為だったんです。

しかも、パキスタン軍に察知されないように、作戦にはご丁寧にも15億ドルかけてステルス仕様に改造したブラックホーク・ヘリが2機使用されたことからしても、パキスタン政府なんてハナっから全く相手にしていないという徹底ぶりで、この一部始終をオバマ大統領は幕僚と一緒にモニターで見学していたというのだから恐ろしい限りです。そしてこの件をアメリカは超法規的措置やら国家機密などと繰り返すばかりで未だにろくに説明もしていません。

挙げ句に「ゼロ・ダーク・サーティ」なんていう扇情映画まで作って正当化するという手の込みよう。ただ、ジェシカ・チャスティンは好きな女優で、映画もなかなかよくできてて好きな映画ではあるんですがね・・。ちなみに、この本を読んでから「ゼロ・ダーク・サーティ」を見ると、この作戦がすぐに許可されなかった理由とかの舞台裏がよくわかります。

その他、この本にはドローンを使用したテロリストの殺害の様子なんかがふんだんに紹介されていますが、その半分以上(おそらく7割以上)が全く関係のない民間人が犠牲になっているという体たらく。

想像してみてください。あなたが友人や家族を招き、夜、庭でバーベキューを楽しんでいたとします。みんなおしゃべりしたり歌ったりダンスしたりと、日曜の夕べをそれぞれに満喫しています。するといきなり上空にヘリコプターが現れ、ヘリから統合特殊コマンドの精鋭が落下してきて、地面に着地したのが砂煙の中で辛うじて見えたと思ったその時、ピシッ!ピシッ!という音とともに次々に友人と家族が射殺されていきます。そして自分も腕や足を撃たれ地面に瀕死で倒れ込むのも束の間、おもむろに両腕を後ろ回しに捻られ「オマエはテロリストだな!じっとしていろ!」などと乱暴に扱われ、家族が横たわっているを見て泣きわめいていると、バシッ、バシッと数発殴られて気を失います。その後、どこかの違法な刑務所に連れて行かれ、1週間ほど独房に監禁され、身に覚えのない尋問に加え、怒声や罵詈雑言を浴びせられます。で、2週間後に情報に誤りがあったことや無実であることが判明し、何の謝罪もなくゴミのように釈放されます。

って、もしこんな事が自分に起こったらどうでしょうか?どう考えてもなりますよ、テロリストに!そして復讐のために立ち上がるに決まってるじゃないですか。僕はこんな事が起こればテロリストになって核で武装しますね。っていう、まあ極めて当たり前の気持ちや感情こそが、世界でテロがなくならない最大の原因だと思ってます。要するにアメリカは他の国のことは放っておけばいいわけですし、そんな金があったら自分の国の貧困問題に取り組めというか。どうしても介入したかったら、学校作ったりインフラ整備したり、医療支援したり、そっちに力を入れればいいわけで。

 ただ、この本は2012年頃までの対テロ戦争しか書かれていませんので、オバマの2期後の政策や、ISの台頭やシリアの現状とか、現トランプ政権がやっていることは全く知ることができません。なので、続編を期待してます。きついけど出たらたぶん買うんだろうなあ。だって日本のメディアでは全く無視されている事柄ですしね。 

アメリカの卑劣な戦争―無人機と特殊作戦部隊の暗躍〈上〉

アメリカの卑劣な戦争―無人機と特殊作戦部隊の暗躍〈上〉

 
アメリカの卑劣な戦争―無人機と特殊作戦部隊の暗躍〈下〉

アメリカの卑劣な戦争―無人機と特殊作戦部隊の暗躍〈下〉

 
ゼロ・ダーク・サーティ スペシャル・プライス [DVD]

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