5年ほど前の本ですが、最近読んでものすごくおもしろかったです。
主にアメリカ経済と一般的労働者階級にスポットをあて、その1980年代から2010年までの変遷が年代ごとに写真と記事でまとめられています。おもしろいのは、1980年代にインタビューした人々に、その25年後にもう一度インタビューを試みるという手法で、それぞれの写真が同じページに載っていて衝撃をうけます。
ただ、すでに連絡を取れなかったり生死すら不明な人々もいるわけで、むしろ掲載されている人々は、激動するアメリカ社会に振り回されながらも、地道に辛抱強く生き抜いてきた人々であって、写真の眼差しは力強くもどこか儚さを秘めているようにもみえます。
なお、この本を書いたジャーナリストのデール・マハリッジさんと写真家のマイケル・ウィリアムソンさんのかつての友人も、ホームレスや貧困層に落ちぶれた人達もたくさんいて、忍び寄る貧困の陰がすぐ近くまで差し迫っていてものすご~くリアリティがあります。
アメリカの社会構造はこの30年間でめまぐるしく変化し、一口でいうと、マネー経済を主体とした金融経済の変化や、ウォール街を取り巻く様々な規制の撤廃、富裕層への優遇、弱者の切り捨て、モノづくりや第一次産業の海外への移転が行われました。
その結果、地道に働く勤勉なアメリカの中産階級の人々が搾取され貧困層に没落するほか、産業の空洞化が進み、富裕層はどんどん金持ちになるのに対し、アメリカという国自体は緩やかに疲弊し、技術や産業が失われ、国力が低下しているのは間違いないと思います。
その背景には、富裕層が十分お金を稼げばその分貧困層にも富が再分配され、社会全体としてみると底上げされて向上するという「トリクル・ダウン理論」があるんですが、そんなものうまくいくはずもないわけで。
現実は、当然のことながら金持ちがさらに金持ちになるとできるだけお金を節税するようになるだけ。そして政府もそれを後押しするように金融や証券取引に課せられていた様々な規制を撤廃。その結果、ウォール街やヘッジファンドは次々に複雑な金融商品を作り出し、企業買収を繰り返すほか、様々なローンや保険、企業年金、社会保障なんかを搾り取るハゲタカと化しました。つまり、市場の規制をすべて撤廃すると、欲だけが暴走し「神の見えざる手」は働かないことが実証されたわけです。
企業も利潤追求が最優先となり、従業員のことなどお構いなしに海外に仕事をアウトソーシングし、工場を閉鎖し社員をどんどん解雇。そして、肝心の政府も窮地に陥った銀行に何億ドルもの救済措置を取ったわけですが、その金で金持ちはさらに金持ちになるという悪夢。
その際の救済の原資は元々どこにあったのかというと、それは中流階級や貧困層の人々の給料や不動産、保険や企業年金、納めた税金や社会保障費や医療費なんですね。この30年間でアメリカは望んでか望まざるかはわかりませんが、社会の0.5%の富裕層だけにお金が集中する悪夢のような仕組み作りに成功しました。ただし、この本は2010年の本なので、今のトランプ政権がそういう政策をしているかどうかは調べてみないとわかりませんが。
しかし、最後の章ではそんな最悪の状況でも、様々なインタビューの結果から、一筋の希望を提示しているのがこの本のすごいところ。虐げられた人達もただやられているばかりではなく、少しずつ自分たちの力で立ち上がっています。そのヒントとなるのが、昔の普通の暮らしへの進歩的回帰です。
例えば、一部の都市では、自分たちで食べる食料は自分たちで育てるなどの自給自足がブームとなっており、廃墟や廃屋の多い地域を都市農園として再整備する取り組みが始まっています。そして、この取り組みは孤立して行うのではなく、農園を通じて、地域コミュニティ全体で協力して運営することの重要性を説いてます。
それは、これまで政府が行ってきたような景気回復策やグローバル化とは相反する動きで、育てた食物が余ったら近隣住民に売ったり交換したり分けたりするなど、地産地消の考え方です。そして、要らないモノを買わず、贅沢をせずに節約し、身の丈にあった暮らしをする一方で、孤立せず、コミュニティとして助け合っていくことが重要なのだと。
なんとなく、僕の好きなphaさんの主張と通じところがある気がします。今後の日本を考えるうえでとてもためになる本だと思います。
繁栄からこぼれ落ちたもうひとつのアメリカ―――果てしない貧困と闘う「ふつう」の人たちの30年の記録
- 作者: デ-ル・マハリッジ,マイケル・ウィリアムソン,ラッセル秀子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2013/09/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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