1日で読みました。元々僕はアメリカという国が大好きで、70年代のアメリカ映画やアメカジファッション、アメリカ製品(レッドウィング、ダナー、リーバイス、ディッキーズ、ノースフェイス、パタゴニア)の大ファンです。
特に、現代のアメリカを知るためにうってつけなのが、映画評論家で現在カリフォルニア州バークレー在住の町山智宏さんの本を読むことです。その本の中で、「ヒルビリー(田舎者)」とか「レッドネック(首筋が赤く日焼けした白人労働者)」「ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)」や「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」といった言葉がよく出てくるんだけど、ずっと実態がわからずにこの本(ヒルビリー・エレジー)を手に取ったわけです。
こういった表現は、南はアラバマ州やジョージア州、北はケンタッキー州やオハイオ州、ペンシルバニア州などの、アパラチア山脈一帯の丘陵地帯にトレーラーハウスなどに住んでいる白人労働者階層(貧困白人層)を指し、たとえば最近の映画でいうと、クリスチャン・ベイル主演の「ファーナス/訣別の朝」がペンシルバニア州のお話で、山岳地帯に住むウディ・ハレルソン扮する悪党どもがまさにヒルビリー。
ウディ・ハレルソンは本当に怖くて、思い出すだけでも震えが止まりません。とんでもない役者ですね。ただ、別にヒルビリーの全員が悪党というわけではありませんのでご安心を。その辺は、「ヒルビリー・エレジー」を読むとよくわかります。
一方、ラストベルトというのはそれよりも若干西よりの五大湖やデトロイト周辺のミシガン州、イリノイ州、インディアナ州、オハイオ州などの、かつては栄華を極めた鉄鋼業や自動車産業が著しく衰退してしまったアメリカ中東部の錆付いた工業地帯のことで、例えば、「ボーリング・フォア・コロンバイン」とか「華氏911」、「キャピタリズム」で有名なマイケル・ムーアはミシガン州の出身です。
この本の作者であるJ.D.ヴァンスさんもまた「スコッツ・アイリッシュ」と呼ばれるヒルビリーの家庭に育った一人で、この本は彼の破天荒な一族の生い立ちから現在の成功をつかむまでのサクセス・ストーリーとしても読み応えがあるし、またヒルビリーの実態を知る意味でもすご~くためになる本です。
ただ、ヴァンスさんの祖母とか祖父のエピソードを読むと、なんか人間味豊かでものすごくかっこいい人たちなんだよね。自分たちなりの美学や行動規範を持っていて、それを絶対に譲らない点とか。アウトローとしても非常に魅力的で、こういう祖父母がいたこと自体、ヴァンスさんはむしろ幸せ者というか。
ちなみに「スコッツ・アイリッシュ」というのは、アイルランド北東部のアルスター地方から移民してきたスコットランド由来のプロテスタントの人々を指し、主にアメリカ北西部のアパラチア山脈周辺に住む人々のことです。しかしアパラチア山脈周辺に住み着いたのはなぜなんでしょう。故郷のアルスター地方に雰囲気が似ていたからでしょうか。
特に衝撃だったのは、J.D.ヴァンスさんが「ヒルビリーのほとんどは、たとえまともな仕事があり、続ければ十分生活が成り立つにもかかわらず、その重労働に耐えきれず、簡単に保険付きの仕事を辞めてしまうことだ。そして、自分ではどうにもならないと考え、他人のせいにし、あとは周囲が何とかしてくれると思っていることだ」と言ってる点です。
普通、日本なんかだと、貧困層は追い詰められ、働き口がなく、あっても低賃金といったような、追い詰められ論とか被害者的ニュアンスで語られることが多いんだけど、この作者はそうでないところがすばらしい。
ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち
- 作者: J.D.ヴァンス,関根光宏,山田文
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/03/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (10件) を見る